プーチン国防論文②「新しい脅威に対する”スマートな”国防」

前回に引き続き、プーチンの国防に関する論文の翻訳を掲載します。
今回は「新しい脅威に対する”スマートな”国防」と題されたパートで、現代の戦略的環境に関するプーチンの分析と、これに対して軍や軍需産業を発展させていく必要性が説かれています。


-------------------------------------------以下、翻訳--------------------------------------------------


新しい脅威に対する「スマートな」国防

現に存在している以外の危険にも対処できるメカニズムが必要だ。「地平線を越えて見通すこと」、すなわち30-50年先の脅威の性質を評価できるようにせねばならない。これは切実な課題であり、軍事・非軍事の学問的可能性と長期予測のための適切なアルゴリズムを動員すべきものである。

ロシア軍にはいかなる兵器が必要か。我が国の軍需産業コンプレクスに対していかなる技術的要求が持ち上がってくるか。軍事的な分析を行い、戦略的計画を立案し、「処方箋」を決め、それらを我が国の武力機関において適時に実施するために、新たに高度かつ「スマートな」システムを設立する必要がある。

「来るべき世紀」に我々を待ち受けているものは何であろうか。

核保有国同士によるグローバルな核戦争の蓋然性は高くないし、そのような事態は文明の終焉を意味することになろう。我々の父や祖父たちがとてつもない努力によって作り上げた核の「弾薬庫」は今や「干上がって」いるものの、誰も我々に対して広範かつ大規模な侵略を仕掛けようとはしていない。

しかしながら、新型兵器・軍事技術から情報通信技術に至るまでの広範な領域における科学技術の進歩が、軍事紛争の質的変化をもたらしていることには注意を払わねばならない。高精度の長射程非核兵器を大量使用することにより、これらの兵器が紛争(グローバルな紛争を含む)に勝利する上での決戦兵器として確固たるものになる傾向がますます顕著になっていくだろう。

宇宙空間および情報戦の領域(第一義的にはサイバー戦)における軍事的能力は、軍事紛争の性質を手意義付けるにあたって、決定的ではないかもしれないが大きな意義を持つことになろう。そしてさらに遠い未来には、新たな物理的原則に基づく兵器(放射線、地球物理、ビーム、遺伝子、心理その他)がこのような意義を持つことになるだろう。これらは全て、核兵器と並んで政治的・戦略的目的を達成するための質的に新しい手段となりうるものだ。このような兵器システムは核兵器の使用に匹敵する結果をもたらしうるが、政治的・軍事的計画においてはより「受け入れられやすい」。したがって、侵略や無秩序を抑止する上で戦略核のバランスが果たす役割は恒常的に低下していくことだろう。

我々の眼前では、あらゆる新しい地域紛争と極地紛争が燃え盛っている。不安定で、人工的に煽られ、人為的に無秩序状態にされた地域が出現している。しかもロシアやその同盟国の国境とすぐ隣り合う地域において、特定の目的のためにこのような紛争を焚きつける企てが見られる。我々は、国際法の基礎が損なわれ、破壊されつつあると見ている。特に国際安全保障の領域がそうだ。

このような条件下では、我々は矛盾の除去と紛争解決のための手段として、外交的・経済的手段にのみ頼るわけにはいかない。抑止戦略の枠内において、防衛上の十分性を満たすレベルで軍事的ポテンシャルを発展させるという課題が、我が国の前には存在しているのである。そして軍、特殊機関、その他の軍事組織は、新たな事態に対して迅速かつ効果的に対処できるよう準備ができていなければならない。これは、ロシアが危険にさらされておらず、自らの主張が様々な枠組みにおけるパートナー諸国に受け入れられていると実感するために不可欠の条件である。

我々はまた、同盟諸国とともに集団安全保障条約機構(CSTO)を強化してゆかねばならない。ここには(CSTOの)緊急対応部隊も含まれる。CSTOはユーラシア空間における安定性確保という任務を果たす用意ができている。

軍隊・原子力および宇宙産業、軍需産業コンプレクス、軍事教育、基礎軍事科学、応用研究プログラムのダイナミックな発展を確実なものとすることは、将来におけるロシアの最重要国家政策である。


--------------------------------------------以上、翻訳-------------------------------------------------


次回は「軍がロシアを守る」というパートを掲載します。
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プーチンの国防論文①全般認識

去る2月20日、ロシアのプーチン首相が国営紙「ラシースカヤ・ガゼッタ」に、「強くあれ:ロシアのたしかな国家安全保障」と題した長文の論文を掲載しました。
3月4日に迫った大統領選ではプーチン首相の大統領復帰が公算大と見られていますが、第二次プーチン政権の国防・安全保障政策の方向性を考える上で、この論文は重要な手掛かりになるものと思います。
この論文の意義に関する解説記事は『軍事研究』誌等で書いていく予定ですが、まずは内容把握が先ということで、各セクションごとにぽちぽちと全訳して公開していくことにしました(計7回となる予定)。
まずは最初の全般的状況認識についてのパートを以下に訳出します。

--------------------------------------以下、翻訳------------------------------------------------------


世界は変化している。そこにおいて進行中のグローバルな変革プロセスは、最も広範で、ときに予測不可能なリスクを秘めている。世界経済その他が衝撃を受けている状況下にあっては、力による圧迫の下に他者を犠牲にして自らの問題を解決しようという誘惑が常に存在するものだ。すでに「国家主権はグローバルな意義を持つ資源にまで及ぼされるべきでない」などいう "客観的な"問題提起の声がときおり上がっている。

たとえ仮の可能性であったとしても、ロシアに関してはこのようなことはあってはならない。つまり、我々は何人をも自分の都合でそそのかしてはならないということだ。

だからこそ、このような条件が満たされないかぎり、我々は戦略的抑止力のポテンシャルを放棄することはないし、それを強化していくだろう。我々が1990年代の困難な環境下で国家主権を維持できたのはまさに戦略的抑止力のおかげであった。率直に言って、我々は重みを持ちうる根拠を他に持ち合わせていなかったのだ。

ロシアが安泰でない限り―――つまり、紛争の発生リスクを検討せず、軍事・技術上の独立性を確保せず、あらゆる挑戦に対する優れた適切な対抗策を講じなければ―――国際的な地位を強化したり、経済や民主的な制度を発展させていくのが不可能であることは明らかである。

我々は、軍の発展とロシアの軍需産業の近代化に関する過去に例を見ないプログラムを採択し、実施中である。来る10年間で、この目的のために全体として23兆ルーブルが支出される。

その額を幾らぐらいにするのか、そしてこれほどの支出を今行う必要性があるのかについて、多くの論争があったことを隠すつもりはない。この支出は、国家の能力と資源の観点からまったく適切なものであったと確信している。重要なことは、近代的な軍隊の設立と国防ポテンシャルの複合的な強化という課題の解決は、遅らせるわけにはいかないということだ。

これはロシアの予算を軍事化しようという話ではない。要はこういうことだ。我々が支出しようとしている予算は、我が軍への予算手当が歴史的に少なく、実質的に新型兵器の購入が行われていなかった年月の「ツケを支払う」ためのものなのである。この間、他国は一貫して自国の「軍事的な筋肉」をつけていたのである。


-------------------------------------以上、翻訳-------------------------------------------------------


次は「新しい脅威に対する"スマートな"国防」というパートの訳を掲載します。

JBpress ロシア軍が将校の給与を3倍に引き上げ

またも御無沙汰しておりました。
久しぶりにJapan Business Pressに記事を書かせていただきましたので、宣伝まで。
ロシア軍が1月から将校の給与を一挙に3倍に引き上げた件についてです。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/34556

ちなみに先日、国営紙「ラシースカヤ・ガゼッタ」にプーチン首相が国防・安全保障についての長文記事を投稿しました。
5月には誕生すると思われるプーチン政権の国防に関する考え方を理解する上で興味深いので、このブログにポチポチと全訳を載せて行こうかな、などと考えておるところです。
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最近の書き物
★『プーチンの国家戦略』(単著)

 2016/10/26発売。幅広い読者の皆様向けに、安全保障政策を中心とした筆者なりの「ロシア論」を初めて展開してみました。プーチン大統領を取り巻く情報機関人脈、イスラム過激派、宇宙といった新トピックも盛り込んでいます。

★『軍事大国ロシア』(単著)

「軍事大国ロシア」を、軍事力、戦略、対外関係、軍需産業、社会など様々な側面から描き、その実態を浮かび上がらせようという試みた一冊。専門書の体裁なのでやや硬め。

★ドミトリー・トレーニン著『ロシア新戦略』(共訳)

カーネギー財団モスクワ・センター所長である著者がソ連崩壊後のユーラシア世界を描き出した労作。管理人も翻訳に参加しています。

★「イラストでまなぶ!ロシア連邦軍」(共著)
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