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★日露防衛外交閣僚会合(2プラス2)の課題と展望

ユーラシア21研究所のロシア語オピニオンサイトに「日露2プラス2の展望と課題」(Перспективы и задачи японо-российских переговоров в формате «Два плюс два» )と題した論考を掲載して頂きました。

以下、そのもととなった日本語版を掲載致します。


日露2プラス2の展望と課題
小泉悠(未来工学研究所)

 今年10月2日、歴史上初めての日露防衛・外交閣僚会合(2プラス2)が行われた。これまで日本が2プラス2を行ってきたのは同盟国である米国(1960年以降)と安全保障上の協力を深めているオーストラリア(2007年以降)だけである。その意味では、同盟関係に無く、領土問題によって平和条約さえ結べていないロシアとの2プラス2会合は異例と言える。ところがロシアの側に目を転じると、同国は最大のパートナーである中国や旧ソ連諸国との間でさえ2プラス2会合は行うことは希で、むしろ米国など旧西側の関係が難しい諸国と2プラス2会合を実施する傾向にある。つまり日本にとっての2プラス2とは「関係が良いからやる」ものであるのに対して、ロシアのそれは「関係がかならずしも良くない、あるいは良くしたいからやる」という相違がある。
 では、今回の2 プラス2に日本とロシアはどのような思惑を持っていたのか。
 そもそも日露間でこのような枠組みを設けようという構想がどのような経緯で持ち上がってきたのかははっきりしないが、一説には昨年10月にパトルシェフ安全保障会議書記が来日した際に日本側に打診し、4月の安倍首相訪露の際に日本側が提案したと言われる。これが事実であれば、2プラス2を望んだのはロシア側であるということになる。近年、ロシアが日本や米国との安全保障協力に積極的な姿勢を示していることや、上述した日本的な2プラス2の理解も、この点を裏付ける。
 では、ロシアが日米との安全保障協力を強化しようとしている背景は何なのだろうか。社会経済的発展の遅れたシベリア及び極東地域の振興を図るためにロシア政府がアジア太平洋地域との関係強化を進めようとしていることは一つの大きな背景として指摘できよう。ただし、これだけでは安全保障面での協力強化を進めようとしていることの説明にはならない。
 そこで注目されるのが中国との関係である。中国はロシアにとって最大の経済的パートナーであり、上海協力機構等を通じた安全保障上のパートナーでもある。また、中露は米国の「一極支配」に対抗して「多極世界」の実現を唱え、米国のグローバルなミサイル防衛(MD)網にも懸念を示すなど、国際安全保障秩序面でも利害が一致する部分が大きい。その一方、ロシアは中国の急速な軍事力近代化や、極東・シベリアに対する「人口圧力」に脅威認識を抱いてもいる。その意味で、ロシアはアジア太平洋地域で中国以外にも安全保障上のパートナーを必要としている。ロシアはヴェトナムや東南アジア、インドとも安全保障上の関係を強化しているが、これも同様の文脈から理解することができる。
 ただし、この点に関して、中国との軋轢を抱える日本には過剰な期待も見られる。今回の2 プラス2に際してもロシアと連携して中国を牽制すべきである、との論調が見られたが、これは希望的観測に立脚した議論と言える。たとえば中国の海洋進出はロシアにとって必ずしも脅威とは言えず、むしろ西太平洋において中国海軍が米海軍に対する接近拒否・領域拒否(A2/AD)能力を持つことはロシアにとって都合がよいとも考えられる。また、前述のように中国はロシアにとって最大の経済的パートナーであり、中国と正面切って軍事的対立に陥ることは政治的・経済的・軍事的な悪夢である、という点でロシア側識者の見解はほぼ一致している。今回の2プラス2においても、ロシアは中国を議題とすることを拒否し、さらに日米の進めるMDシステム開発に懸念を示すなど、中国への配慮を忘れなかった。
 むしろロシアが日本やその他のアジア太平洋諸国に対して求めているのは、中国という巨大な隣人と対等に付き合っていくための「バランサー」としての役割であろう。これは日本にとっても同じことが言えるのであって、安易にロシアに「対中牽制」を期待するのではなく、ロシアをバランサーとして活用しながら中国と付き合っていく方法を模索すべきであろう。
 その意味では今回、2プラス2というハイレベルの外交・安全保障対話チャンネルが日露間にできたことは大きな意義を持つ。重要なことは、このチャンネルを定期的に、かつ継続していくことである。
 問題は、日露が領土問題を抱えた微妙な関係にあるという点だ。しかも日本は集団的自衛権の行使を原則的に自制するとの立場を取っており、米国についてのみ、この制限を緩和することが議論されている段階に過ぎない。したがって、日露間に対話のチャンネルはできても、具体的な安全保障上の協力にどこまで結びつけられるかは未知数だ。
 今回の2プラス2ではこれまでの海上捜索・救難訓練を拡大することに加え、対テロ、対海賊、サイバー安全保障といった非伝統的安全保障分野での合同訓練や協力を実施することが初めて合意されたことは注目に値するものの、これ以上の踏み込んだ協力、特に伝統的安全保障分野での協力に踏み出すことは難しいだろう。
 このような制限の下で、いかに協力へのモメンタムを失うことなく対話のチャンネルを継続していくのかが、今後の日露2プラス2 の課題となろう。
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