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★『文藝春秋』1月号のロシア脅威論を読んでどうかなぁと思った件

『文藝春秋』2015年1月号(戦後70年記念特大号)に麻生幾氏の「北海道を射程に入れるロシア軍の大増強」と題する長文の記事が掲載されていたので読んでみた。
結論から言うと「なんじゃこりゃあ」(あんまりよくない意味で)というようなことが書いてあり、ちょっとどうかと思ったので、メモとして以下に疑問点などまとめておきたい。



麻生幾氏によると、NATOの欧州連合軍(ACE)が極東ロシア軍について分析したところ「東アジアの安全保障を一変させかねない、極めて高い脅威があることを把握」したという。
そしてこの情報は国防総省経由で太平洋軍に伝えられ、「日米安全保障体制の根幹を支える情報担当チーム」の「極めて重要なテーマ」になった、という。
何それ怖い。
極東ロシア軍いつの間にそんなに強くなったの超怖い。
ところがその把握された「極めて高い脅威」の中身というのが極めて残念で、以下の通り。

まず挙げられる根拠が、スロヴィキン司令官が若干46歳(正確には48歳)にして大将であることで、これはその通り(ほかの3つの軍管区では全員56歳で10歳上)なんですが、それに「NATO幹部」が「驚愕」はないですよぬ。
4つしかない軍管区の各司令官の情報くらい、米軍はもちろん自衛隊でも松戸のおじさん(ぼく)でも把握している話で(何しろWikipediaに載ってるし)、いちいち「驚愕」してるとしたら相当素人としか思われない。
さらに後段ではスロヴィキン司令官が「人間の皮を被った獣」とでも言うべき人物で、2013年末、北方領土で自衛隊の動向を探るための挑発作戦をある旅団長に命じた際、同旅団長を恫喝して追い込み、自殺させたというエピソードが紹介されている。
何それさらに怖い。
辻政信みたいで怖い。

・・・ということは、2013年末にどこかの旅団長が亡くなっている筈ですね?
そこでラヂオプレスの「ロシア軍事月報」で毎月のロシア高級軍人の物故記事を調べてみたんですが、2013年の後半から2014年の前半に東部軍管区で旅団長が死亡したという事例は見つからなかった。
まぁロシア軍がひた隠しにしている可能性はあるとして、本当かなぁぁぁぁぁという気はします。

というのも、スロヴィキン大将はもともと、セルジュコフ前国防相が創設した憲兵隊の初代総司令官に推挙されていた人物。憲兵隊は軍内の汚職取締や綱紀粛正を期待されていたので、当然、そういった既得権益にあずかっていた軍の守旧派からはウケが悪く、スロヴィキン氏にはありとあらゆるネガティヴ・キャンペーンが展開されていた。
しまいには1991年のクーデターの際、彼の指揮する中隊の兵士が民間人を撥ねた等という明らかに関係ない話まで持ち出してスロヴィキン氏を中傷し、何が何でも憲兵隊構想を潰そうとしていたわけです。
どうも麻生氏が取り上げたこのエピソードは、そういうネガキャンのひとつを真に受けてしまったのではないか・・・という気がしてならないのです。


続いて今年9月のロシア軍東部軍管区大演習「ヴォストーク2014」について、麻生氏の記事には次のような「米太平洋艦隊関係者」の発言が紹介されている。

2013年、千島列島で、戦後初めて、着上陸訓練を行ったときも驚かされたが、今回はその規模が圧倒的に違っていた。(中略)その意図を真剣に考えている。北方領土の防衛だけなのか。それともーーー。今、私は、対ロシアの日米安全保障体制の見直しを真剣に認識している

北方領土を含む千島列島での着上陸、結構頻繁にやってますけど、その関係者大丈夫ですかね(震え)。
ちなみに今回のヴォストーク2014が過去に例を見ないくらい大規模だったのはたしかで、その意味では僕も非常に注目しているのですが(詳しくは『軍事研究』2014年12月号の拙稿を参照)、むしろ今回の演習でフィーチャーされたのは北方領土を中継点としてサハリン方面へ長距離展開を行ったこと、そして北極圏で大規模な戦闘訓練を初めて行ったことだと思います。

さらにこの演習では国後島南部にBM-30スメルチ多連装ロケット砲が展開され、「北海道の防衛を根底から覆すもの」として米太平洋艦隊関係者が「戦慄」したというが、その程度で北海道の防衛が覆るなら日本はとっくに滅びてると思います。

さらに後段、麻生氏は、ヴォストーク2014演習に招かれた「アジアのある国」の駐在武官や外交官の話を総合した結果として、次のような「興味深い」演習シナリオを紹介している。

領土問題を抱える「A国」の「複数の部隊」が、ロシアの領土である島に、空挺降下作戦を含む着上陸作戦を実施。そのため、「東部軍管区」部隊が、対着上陸作戦を行うーーー。

この情報は正確である。なぜなら、ロシア軍の機関紙「赤い星」に書いてあるから。
(http://www.redstar.ru/index.php/daty/item/18801-vostok-2014-kulminatsiya-v-avachinskom-zalive)

さらに麻生氏は訓練のシナリオに含まれる「第三国」について、「「第三国」とは、中国だ、とすぐに分かった」という「欧州のある外交官」の談話を紹介している。
だが、上記の記事によると、「第三国」とは「NATOの主導的な地位にある仮想国家ミズーリヤ」とされており、どう見ても米帝のことです本当にありがとうございました。

長々と書いたが、要するにこの記事、Wikipediaや「赤い星」に載っているレベルの情報がまるっと抜け落ちていたり、ものすごい秘密情報だと勘違いしている例がすごく多い。
そのせいで、極東ロシア軍が冷戦期さながらの恐怖の軍隊に、東部軍管区司令官のスロヴィキン大将は「人間の皮を被った獣」という具合になってしまっている。
もちろんロシア軍の脅威を過小評価してはならないが、ロシアが極東で攻勢的な防衛戦略を採用している兆候や、他地域に比べて優先的に軍事力の近代化を行っている兆候は今のところ観察できず、やはりこの記事が煽る「ロシアの脅威」なるものには首を傾げざるを得ないのです。

追記
ロシア軍の演習というと秘密裏に行われているイメージがあるかもしれませんが(そういう演習もありますが)、最近、ロシアも後方戦略には力を入れていて、国防省が出資するテレビ局「ズヴェズダー」がこんなPRビデオをつくったりしています。
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